新宿・歌舞伎町にホストクラブやバー、美容室など十数軒を構える、元ナンバーワンホストの名物経営者が、欲望の渦巻くこの街のプロフィールを縦横に語り尽くしている。

 著者はごく一般的な家庭に生まれ育ち、名門高校まで卒業していながら、大学を中退してレールを外れ、戻れないまま歌舞伎町にどっぷりと浸かってしまった人だ。それだけに、ときには冷徹に距離を置いて、この街の魅力を客観的に描き出すことができる。わざわざ目指すのではなく、「辿り着いてしまう街」としての歌舞伎町。その中で繰り広げられる人間模様。コロナ禍で感染拡大源として名指しで批判された<夜の街>の中で何が起きていたのか、その顛末を語るくだりは生々しい。

 そこに住まう「変わった人々」の素描から、逆説的に「普通とは何か」という問いかけが透かし彫りで見えてくる。(平山瑞穂)

週刊朝日  2021年1月29日号