カフェでアルバイトをする主人公・千春は、ある日、お客さんが店に忘れた文庫本を手にとる。高校を中退し、夢中になれるものがなかった千春だが、なぜかその本が気になり、読んでみたいと思う。そして書店へ行き、本を買い、カフェのお客さんと会話を交わし、千春の人生は少しずつ動き始める。

 表題作をはじめ、本書には全9作の短編が収められている。それらに共通するのは「自ら選択をする」物語だということだ。たとえば「行列」では、ある行列に並ぶなかで起こる様々な出来事を通して、読者は自分がほんとうに好きなもの、時間やお金をかけたいものを、自分自身で選べているのかと問いかけられる。

 すべての物語を読み終えたとき、どんな環境であっても自ら選択し一歩を踏み出すことができるよと、本書はそっと背中を押してくれる。(後藤明日香)

週刊朝日  2020年12月18日号