もう終わりにしようと思ってる──付き合い始めて7週間の「わたし」とジェイクは、彼の両親に会うため田舎の農場に向かっている。2人きりの初めての遠出。互いに強い絆を感じている。しかし「わたし」の頭を占めているのは「終わりにする」ことばかり。

 一見、ありふれた物語は、どこか歪んだ会話、奇妙な両親との対面、携帯に繰り返される不審な着信など、エピソードを重ねるにつれ謎を深め不穏な様相を呈していく。

「わたし」は誰? 「わたしたち」はどこへ向かっている? いったい何を終わらせようとしている? 浮かんでは消える思索は、最後に決定的な惨劇を導く。ミステリ好きなら「想定の範囲内」と言いかねないクライマックスの先に、さらに残る違和感と問いかけ。

 多義的で暗喩に満ちた文体で実存を抉る「哲学」ミステリー。
(阿部英明)

週刊朝日  2020年11月13日号