松田青子の新刊『持続可能な魂の利用』は今年最大の話題作になりそうな爆弾的長編小説だ。

<「おじさん」には、少女の姿が見えなくなった>。<見られる、ということから解放された>おかげで少女たちが手にしたもの、<それは自由だった>。本書はここに至るまでの物語である。

 主人公の名は敬子。カナダから帰国する途中、空港で目にした一団に感じた違和感。目に入ったのは「日本の女の子」たちだった。小さな声で笑いあい、みなうつむき加減。彼女らは「最弱」に見えた。<これでは負けてしまう>

 日本のテレビも同様だった。<男性にとってかわいくあることを、男性にとって従順であることを強制されている女の子たちの姿がテレビで流され続ける毎日><毎分、毎秒再現される性暴力や性差別>。彼女は耐えられなかった。

 敬子自身、かつて年上の男性社員の企みに負けて会社を自主退職した経験を持つ。<正社員の四十代の男と、非正規の三十代の女。/勝敗は明らかだった>

「おじさん」が女性、とりわけ少女たちにとってどれほど有害で迷惑な存在かを小説は暴きだす。「毎日がスペシャル」という歌の一節を「毎日がレジスタンス」に置き換えて反復する敬子を救ったのは、とある「笑わないアイドル」の存在だった。「おじさん」に対する少女たちの嫌悪はやがて復讐へ、革命へと収斂されていく。

<この社会は、これまで「おじさん」によって運営されてきた><「おじさん」から自由になりたい。「おじさん」が決めない世界を見てみたい。「おじさん」がいなくなれば社会構造が劇的に変わるはずだ。その社会を見たい>

 男性社会をこれほどストレートに告発した小説はいまだかつてなかったかも。デビュー作『スタッキング可能』(2013年)のときから注目されてきた作家の初の長編小説。メッセージ性が強すぎるという意見も出そうだが、「おじさん」にはこのくらい言ってやってもいいでしょ。鈍感な男たちを粉砕する最強の一作。さあ、この挑発にあなたは耐えられるか。

週刊朝日  2020年7月17日号