植物の名を漢字で書き表す際には、さまざまな不思議が目につく。「杏」ひと文字でも、「杏子」でも、読みはなぜ両方「アンズ」なのか。中国ではヨモギの一種を指す「萩」が、日本ではなぜまったく異なる植物の名称になっているのか。「山茶花」は素直に読めば「サンサカ」なのに、なぜ「サザンカ」なのか。

 その背景には、元の名称が漢字として中国から伝わってきた時代ごとの発音の違い、日本人の誤解、はたまた日本人が創出した国字が偶然本家に存在していた漢字とかちあってしまったケースなど、さまざまな要因があるという。

 漢和辞典の編集なども手がけてきた著者が、『広辞苑』を片手にそうした謎を解きほぐしていく。『広辞苑』から転載された植物のイラストも楽しい、トリビアに満ちた新手の歳時記。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年5月1日号