神奈川県にある超進学校の栄光学園。そこに他校の先生も授業を見学にくるカリスマ数学教師がいる。「イモニイ」こと井本陽久だ。

 井本は受験のテクニックを一切教えない。それどころか、宿題も出さないし、生徒を叱ることもほとんどない。生徒にひたすら考えさせ、ふざけたり、いたずらしたりする過程も含め、ありのままの姿を承認する。

 教育論と聞くと、子供の能力をどう伸ばすかが焦点になりがちだが、井本はこう語る。「伸ばさないよ。子どもたちは勝手に伸びるんだよ」

 既成概念にとらわれずに徹底的に考えることの重要性を井本は説く。これは井本自身が、「いかに自由になるか」を悩み抜き、たどり着いた境地でもある。本書は教育論であり、極上の人生哲学論でもある。(栗下直也)

週刊朝日  2019年7月19日号