太陽が昇らない「極夜」の北極圏を80日間、犬と旅したノンフィクション『極夜行』が昨年刊行され、大佛次郎賞などを受賞した。本書はその前日譚で、極夜探検に備えて3度にわたり北極圏に出向いた記録だ。

 GPSを使わず、犬とそりを引き、闇を歩く。この命懸けの探検に向けて著者は準備を重ねる。星を読んで自分の位置を割り出す方法を学び、犬と関係を築く。牛や鳥を狩って保存食を作り、明るい季節に極夜圏の小屋まで運んで貯蔵する。冒険の手はずが整うたび、著者は自分が拡張していく感覚を覚える。

 旅は自然の猛威の前に何回も難局に陥り、著者は悟る。人間が作ったシステムの外に出ることが真の「冒険」で、北極の真の姿はこの方法でしかわからないと。稀有な体験を経てしか知りえない内容が詰まった一冊。(内山菜生子)

週刊朝日  2019年6月28日号