『画詩集 いのちの花、希望のうた』の作者は岩崎兄弟。兄・健一が画を描き、弟・航が詩を書いた。どちらも3歳ごろに進行性筋ジストロフィーを発症し、体の自由が利かなくなっていく月日の中で自分にできることを求めつづけた。そして、それぞれが自分なりの表現世界を見つけて技術を磨き、40代にして初の共著を世にだした。

<取っ組み合いの/喧嘩ができる/ありふれた/兄弟の日々/幸せだった>

 2人の画詩は、右に詩、左に画という構成で編まれている。たとえば、まだ兄弟喧嘩ができた日々を慈しむ五行詩の隣には、数本の土筆の写実画がある。

 しかし、春空のような淡い青を背に伸びる精緻な土筆たちを見ていると、写実というよりも、これは「忠実」と呼んだ方がいいのでは、と私は感じた。他の花々や木の実や葉や茎や果実を見ても、同じだった。そこにあるのは外見の写実ではなく、植物たちの内側に充満している生命の勢いのようなものを忠実に描こうとして表れた画なのだ。額紫陽花などは、ほのかな狂気さえ漂わせて葉脈まで美しい。

 健一は動きが悪くなる手でパソコンのマウスを操作し、生きている証として258もの植物を忠実に描いた。そこから選ばれた画に、生の輝きと凄味をとらえた航の詩が寄りそい、生きぬく覚悟にあふれた画詩集が誕生した。後半にある、齋藤陽道が撮った兄弟が並んだ近影は、「同志であり戦友」と認めあっている両者の羞じらいをとらえていて見事だ。

 片手に収まるこの画詩集は、どこを読んでも見ても、すべての人を、きっと励ます。

週刊朝日  2018年7月20日号