そういえば、松本清張の小説が最近、たびたびテレビドラマ化されている。なんでだろう。

〈松本清張がかえってきた。/秘密と戦争の時代に、「黒の作家」松本清張がよみがえる〉と冒頭からカマす高橋敏夫『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』は、そんなわれわれの疑問に答えつつ、松本清張作品の核心と社会的背景に迫った異色の文芸評論だ。

 1909年、各地を転々とする貧しい両親のもとに生まれた清張は福岡で育ったが、中学に進学できず小学校卒業と同時に電気屋の給仕になった。その後、印刷所の見習職人から、37年には朝日新聞九州支社広告部の臨時嘱託に転じ、43年には正社員となるも、まもなく教育召集で入隊。朝鮮に送られ、そこで敗戦を迎えた。

 極貧の生活。学歴や職種への差別。軍隊での体験。加えて彼の人格形成期はプロレタリア文学の全盛期だった。〈松本清張文学に顕著な、社会的な上層であるエリートや権力者への激しい憎悪と、下層を生きる者たちへの共感は、この体験がベースになっていた〉

 松本清張の筆は「隠蔽されたもの」の暴露に向かった。ここからの個々の作品分析は、多少強引だけど日本の暗部が暴かれる快感があってゾクゾクする。

 隠蔽された「戦争」は『球形の荒野』や『黒地の絵』で、「明るい戦後」が隠蔽した差別にまつわる暗い過去は『ゼロの焦点』や『砂の器』で、「政界、官界、経済界」の癒着や汚職は『点と線』や『黒革の手帖』で暴かれた。『小説帝銀事件』や『日本の黒い霧』が暴き出すのはオキュパイドジャパン(占領下の日本)、今日まで続く対米従属の構図である。

 松本清張作品に単純なハッピーエンドはないんですよね。読み終えても事件が解決した感じがしないのは、そのためだったか。

 松本清張の再ブームは、現代が〈ふたたび姿をあらわしはじめた秘密と戦争の薄暗い時代〉だからだと著者はいう。特定秘密保護法、解釈改憲、自民党の独裁体制、日本会議の暗躍。ほんとにそうだなあと思ったらガックリきた。

週刊朝日  2018年2月9日号