愛称の「ひふみん」がユーキャン新語・流行語大賞のトップ10入りもし、今年の顔のひとりだった加藤一二三九段(77歳)。

『天才棋士 加藤一二三 挑み続ける人生』は、将棋の入門書や詰将棋の本などもじつは多数出版しているひふみんが、自身の将棋人生を語った本である。

 ただの天然なオジサンではない。加藤九段は天才棋士だった。1954年、14歳で当時史上最年少のプロ棋士となり(この記録は藤井聡太四段に破られるまで62年間保持)、58年、史上最速でプロ棋士最高峰のA級八段に昇段。63年の棋士生活で、通算対局数は史上最多の2505局。77歳での勝利は最高齢勝利記録。

 数々の輝かしい記録を持つ天才だもの、さぞや破天荒な人生かと思いきや、これがいたってマジメ、とことん誠実。ネガティブな発言が全然出てこないのだ。

 対局に際してはいつも前向き。〈私は今までの長年の棋士人生の中で、対局で負けた場合について考えたことは1回もないのです〉。体力気力も充実していて〈私はどんなときでも疲れたということはありません。対局が終わったときに、疲労困憊ということが1回もなく、まだまだ元気なのです〉。しかも〈私は基本的に緊張しません〉〈真剣勝負における緊張感に耐えるようなことが身についているのではないでしょうか〉。

 いったい何なの、このスーパーマンぶりは! では私生活はどうなのかといえば、妻は〈私が良い将棋を指せるように一緒に頑張ってくれました〉。4人の子どもの子育ても本気でやったけど〈実際は注意する必要もなかったし、勉強しろと言わなくてもやっていましたから安心でした〉。

 どこまでも出来すぎの人生に見えるけど、じつはひふみん、通算負け数も1180敗で歴代1位なのだ(通算勝ち数は大山康晴、羽生善治に続いて歴代3位)。まさに勝ったり負けたりの人生で、それでも平常心を保てることがたぶん才能なのである。医師が診断した健康年齢は46歳、骨年齢は27歳。脱帽です。

週刊朝日  2017年12月22日号