ひんやりと濡れたような手触り。この歌集を覆う印象だ。表紙を開くと見返し部分の紙が、その印象と同様に冷たく手に吸いつく。

《プールにてすこし冷えたる生徒らの瞼まぶたに蝶がとまって》

 教師として生徒を見つめる歌がたびたび登場する。その視線は穏やかなものだけではない。

《福嶋を原発野郎と笑う生徒を叱ることさえうまくできない》

 本書には1977年生まれの著者が2010年から15年に詠んだ歌が収められている。

 震災、離婚、引っ越し。それらを思わせる出来事が淡々と、しかし確かな感情の揺れを持ってつづられていく。短い詩型でとらえられた断片が、歌集に編まれることで大きなひとつに形を変える。短歌における連作の新たな可能性を感じた。

週刊朝日 2017年4月28日号