著者は野村證券出身で、オリンパスの粉飾決算事件の指南役とされて実刑判決を受け、上告中の身だ。

 粉飾と聞くと、枠組みは専門家でもなければ理解できない印象だが、本書を読むと会計知識がなくても検察の出鱈目さを認識せざるをえない。

 とはいえ、出鱈目さでは、著者が在籍した当時の野村證券も負けず劣らず。絶対に儲からない金融商品を売りつけたり、ノルマを達成しないと殴られたり、本人のみならず妻まで呼び出されて叱責されたり。証券会社が株屋と呼ばれ、パワハラという言葉が存在しなかった時代の空気を感じられる。

 登場人物や社名は違法行為に手を染めていても実名で記しており、バブル前後の金融史の裏面を俯瞰できる。「モーレツ」に生きながらも時代に翻弄された男の告白は日本の歪みを映している。

週刊朝日 2017年4月21号