昨年7月に神奈川県相模原市の障害者施設で発生した殺傷事件を、社会学者の立岩真也と障害者ヘルパーの経験がある批評家の杉田俊介が読み解いた。

 二人のアプローチは対照的だ。立岩が障害者をめぐる言説や、歴史的な観点から事件を検証するのに対し、杉田は事件の受容のされ方や、容疑者の思想が一定の支持を得た背景に何があったかなど、「私たち」にとっての事件の意味を問いかける。

 本書は事件を総括するというより、「自分はいかに言葉を紡ぐか」という、著者らの個人的な模索が出発点となっている。しかし、そうした個人の倫理こそが根源的な「悪」に対峙できる唯一の手段だと、読み進めるうちに気づかされる。著者それぞれの論考と討議が収められ、読後感は重いが、目を背けてはならない一冊だ。

週刊朝日 2017年3月17日号