こんなことを知っていたからといって何の得にもなりゃしないけど、言語の多様性を知るには有用かも。エラ・フランシス・サンダース著・前田まゆみ訳『誰も知らない世界のことわざ』は、世界中の言葉から拾い集めた51のことわざに、短い説明と絵をつけたちょっと変わった絵本である。
 人間の考えることなんて似たり寄ったりですからね。すぐ意味のわかることわざもある。オランダ語の〈テーブルクロスには小さすぎ、ナプキンには大きすぎる〉は「帯に短したすきに長し」とほぼ同じ。ブルガリア語の〈一滴一滴がいつしか湖をつくる〉は「塵も積もれば山となる」だ。
 意味は同じでも表現がステキなのもある。セルビア語の〈彼の鼻は、雲をつきやぶっている〉は〈舞い上がっていて、うぬぼれている〉の意味だから「天狗になる」と同じだが、こっちのほうがややロマンチック。ポルトガル語の〈ロバにスポンジケーキ〉は「に小判」「豚に真珠」と同じ意味だが、ちょっとメルヘン。アラビア語の〈ある日はハチミツ、ある日はタマネギ〉は「楽あれば苦あり」の意味だと想像がつくけど、こっちのほうがおいしそうだ。
 しかし、意味がまるで想像できないことわざもあるわけで。スウェーデン語の〈エビサンドにのってすべっていく〉が〈働かずに安楽に暮らしている〉の意味だといったい誰が思うだろう。〈ザワークラウトの中で自転車をこぐ〉というフランス語はどうか。〈ガレージにいるタコのような気分〉というスペイン語は? ザワークラウトとタコはじつは同じ意味で、「お手上げ状態」「手も足も出ない」を指すそうだ。
 動物と食べ物のことわざが多いのは、生活に密着しているせいか。ちなみに日本語からピックアップされたことわざは〈サルも木から落ちる〉と〈猫をかぶる〉の二つ。〈ロバにスポンジケーキ〉や〈ザワークラウトの中で自転車をこぐ〉に比べると、あんまりおもしろくないな。シュールさで肩を並べるのは「イワシの頭も信心から」とかですかね。ちがうか。

週刊朝日 2016年11月18日号