それって東京でいうと、どんなところ? そうだなあ、世田谷の端っこかな。こういう会話、考えてみると私もよくしている。
 岸本千佳『もし京都が東京だったらマップ』は、これを京都と東京の比較論から詳細かつ徹底的にやってしまった本である。
 たとえば京都の烏丸は東京でいえば丸の内。〈ここは京都随一のオフィス街〉で、どちらも明治以前はお屋敷街だった。〈御池通から四条通にかけて高層ビルが立ち並びます〉。〈やはり目立つのはスーツ姿の人。よく見ていると歩くスピードがすごく速い〉。
〈岡崎といえば、大規模な文化施設群の街です。美術館が2つに動物園やコンサートホール、図書館に催事場〉。東京でいえば、それは上野に該当する。
〈北山は、ひと昔前までは京都随一のお洒落スポットでした〉。洋菓子店やブティックが並ぶファッショナブルなこの町は、東京でいえば〈北山通は青山通り、それより北側は代官山〉だそう。
 意外なのは京都駅で〈京都人の心の中心に京都駅は存在していない〉。新幹線か電車の乗り換えにしか使わないので〈品川駅に近いといえるでしょう〉。
 こんな調子で、立ち飲み屋の多い四条大宮は赤羽、都市公園に近い御所東は代々木、北大路は二子玉川、四条から五条にかけての河原町通は蔵前、ティーンが集う新京極通は竹下通り。なるほどねえ。北野天満宮周辺は松陰神社周辺、西陣は谷中で紫野は根津とかは「わっ細かい!」だけど。
 著者は京都(宇治市)で生まれて滋賀県の大学を卒業し、東京で5年働いた後、京都に帰って現在は不動産プランナーという女性。東京と京都の両方に住んだからこそ書けた本でしょうね。
 欠点は街の雰囲気が優先し、都心との位置関係や距離感がつかみにくい点だけど、嵐山は鎌倉、大原は逗子、鞍馬は箱根、という見立てにはちょっと納得。〈山があって市街の人も一目置く存在の街、それが嵐山です〉。そうなんだ。嵐山は相模湖みたいなとこかと思ってた。ちがうのね。

週刊朝日 2016年10月7日号