著者は児童書の翻訳家で、50歳から弾き語りを始めたギタリストでもある。
 創刊当時の「ブルータス」や「ミュージック・マガジン」、あるいはレイ・ブラッドベリの作品群など、さまざまな雑誌や書籍について、愛情豊かに紹介するエッセイ集だ。
 音楽にも造詣が深く、ビートルズ、ボブ・ディラン、ジェームス・テイラー、高田渡、岡林信康、安田南、はっぴいえんどなどが、翻訳者らしい瑞々しい言語感覚で評せられる。
 常盤新平、片岡義男、画家の岡本信治郎など、著者が実際に会った著名人の話には、彼らの等身大の一面が記されていて、興味深い。
 なかでも著者の親戚で“伝説のギタリスト”として語り継がれる伊勢昌之が、新しいコードをみつけるたび、真夜中でも電話をかけてきて著者に弾いて聴かせた話など、二人の師弟関係に感じられる優しい温かさは、彼らが愛して止まないボサノバにも似て、全体のふんわりとした読み心地を象徴している。少年の心を持つ“アラフィフ”にお薦めの一冊。

週刊朝日 2016年2月26日号