韓国や中国を標的に異民族を罵る「ヘイト本」。これまで、一括りにされてきた「ヘイト本」だが、編集方針は多様だ。これらがどのようにして量産されたかを本書は検証する。
 編集プロダクションの元社員は大手版元からの注文が「日本賛美はしない」「事実以上のことを書かない」という意外なものだったと振り返る。過激な見出しや、データを載せても、安易なナショナリズムに回収させない。煽りながらも、寸止めにすることで責任を曖昧にする。主義主張は実はなく、ビジネスに徹した姿が透けて見える。
「ガロ」でおなじみの青林堂は保守雑誌「ジャパニズム」を刊行する。興味深いのは、採算を度外視している点。同誌の元編集長は「(経営者の)右翼思想、正確にはネット右翼思想をこの雑誌で表現したかったんですね」と語る。
 ヘイトデモに対する批判報道も増え、ヘイト本にも一時の勢いはない。とはいえ、出版不況の業界が潜在的な需要の大きさを確認できたのは確かだろう。ブームが再燃してもおかしくない土壌は供給側にも整っている。

週刊朝日 2015年7月31日号