「無」とか「ゼロ」とかいうとなんだかネガティブなイメージだが、この世のいろいろな「なんにもない」には科学の謎を解き明かすスゴイことが隠されているらしい。ビッグバン以前の“虚無”からナマケモノがまるで動かない理由まで、「無」にまつわる科学の最前線を各分野の第一線の研究者たちがつづる。
 プラセボ効果とは、効能ゼロの偽薬でも患者が効くと信じることで症状が緩和したりすること。ところが逆に、すでに効果が認められている薬を患者に何も告げずにこっそり投与すると、驚いたことに全然効かないという。薬の効果とは、実は「効く」と期待することで患者の脳に生じる生化学的反応と薬の作用の双方が絡み合った結果なのでは、と述べている。
 数とは何か、数の定義についての項が面白い。なんと0を示す「空集合φ」ただ一つを使って、整数や分数、複素数から量子論の最新の数学的概念まで、簡潔かつ美しく定義してしまうのだ。つまり数学のすべては「無」に基づいているという驚くべき結論を導く。
 変哲もない日常の根底にこんな想像を超える異世界があるとは。驚。

週刊朝日 2014年10月17日号