「アメリカでは」「北欧では」と、なにかにつけ海外の実例を引き合いに出す人を出羽守という。ベストセラーの定番ラインでもある。日本だけのものかと思ったら、アメリカにもあるようだ。
 パメラ・ドラッカーマン『フランスの子どもは夜泣きをしない』は、フランス流子育てについてのエッセイ。著者はアメリカ人のジャーナリストで、イギリス人のスポーツジャーナリストと結婚してパリに住んでいる。フランスの子育ては英米のそれとは大違いだというのである。この本はまずイギリスで、つぎにアメリカで出版された。
 書名に「ウソだろう?」と思った。孫も子どももいないぼくだが、夜泣きの大変さぐらいは知っている。睡眠不足と育児疲れでゾンビのような表情になった新米ママ(そしてパパ)たちも見てきた。
 ところが本当なのである。もちろん新生児のときは夜泣きするが、生後2、3カ月で、朝までぐっすり眠る。わが子の夜泣きに悩まされた著者は、その秘訣を聞いて回る。しかし答えは見つからない。フランス人はそれが当たり前だと思っているからだ。ようやく見つけたのはアメリカに里帰りしたとき。ニューヨーク在住のフランス人医師に話を聞く。ポイントは「ちょっと待つ」だ。赤ちゃんが泣いてもすぐあやしたりミルクを与えたりしない。ちょっと待つ。親が待つことで、赤ちゃんも自力で落ち着くことを覚える。
「ちょっと待つ」は子育て全般に共通している。食事でも何でも、世の中にはルールがあることを赤ん坊のうちから教える。それも頭ごなしにではなく、子どもが理解するまで待つのだ。ちなみに本書の原題を直訳すると「フランスの子どもは食べものを投げない」。
 子どもが生まれると万事が子ども中心になる。しかし、子どもに振り回され、ストレスがたまり、そのはけ口を子どもに求めてしまう。最悪の帰結が虐待やネグレクトだ。まずはちょっと待とう。

週刊朝日 2014年7月18日号