2013年を代表するドラマとなったNHK連続テレビ小説『あまちゃん』は、視聴率だけで比較すれば、決して突出していたわけではない。前年の『梅ちゃん先生』だけでなく、放映中の『ごちそうさん』の方が上回るかもしれない。しかし『あまちゃん』は、ふだんは朝ドラなど観ない人々を巻きこんだ。
 実は私もその一人なのだが、最初から観たのは、宮藤官九郎が脚本を書くと知ったからだった。
『タイガー&ドラゴン』や『木更津キャッツアイ』など傑作ドラマの脚本をものしてきた宮藤の魅力は、よく言われるように“小ネタ”にある。ちょっとしたエピソードやくすっと笑えるコント風のやりとりを積みあげながら物語る作品は、どうしてもマニアックになりがちで、万人受けはしないと評されてきた。その宮藤が、主婦層や高齢者の歓心を得るために女性の一代記といったストーリーが多い朝ドラを担当するのだから、期待しないはずがない。プロデューサーの心意気を讃えつつ観はじめたのだった。
 3日目には、私はもう夢中になっていた。いつしか昼と夜の再放送、土曜日の一週間分の連続再放送まで欠かさず観るようになった。
 宮藤は、自身の持ち味を消すことなくユーモアたっぷりに祖母と母と娘三代の過去と現在を描き、地方の町おこし、アイドル論、和解、家族、そして東日本大震災などのテーマと向きあった。それは笑いと涙が交錯する群像劇であり、少女の成長記であり、何より希望のメッセージにあふれていた。
 小さい物語と大きな物語が複雑に、かつ繊細に交差していくドラマの中心には、いつも主人公のアキがいた。「地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華も無いパッとしない」高校2年生のアキが母の故郷を訪ね、祖母に会い、やりたい方へ向かっていく人となっていく『あまちゃん』。その脚本がいかに素晴らしいかは、こうしてわざわざ2分冊の大著となって刊行された事実が証明している。

週刊朝日 2014年1月17日号