北海道・十勝に「新得・共働学舎」という農場がある。1978年の創設。身体や精神に障害があるなどの理由で居場所を見つけにくい約70人の人たちが暮らしている。
 特徴は、大きく二つある。ひとつは、ナチュラルチーズの生産だ。2004年に欧州のコンテストで金賞を受賞したほどの味。しかも、それぞれのペースでゆっくり働く人たちがつくっている。もうひとつは、入りたい人を断らないこと。「だって、その人は、その時、何かが必要なわけだろう」と代表の宮嶋望さん。
 著者は、ときに自らの悩みもさらけ出しながら取材を続ける。宮嶋さんも家族の問題点を隠さない。著者が親しくなった50代の男性は、サリドマイド事件の被害者で、両腕がない。施設で育ち、波瀾万丈の人生を経て、この農場に落ち着いた。「自分に合った仕事を、自分で選べる」からだ。
 宮嶋さんの父は、東京の「自由学園」の元教師で、長野県で共働学舎を開いた。「(この農場は)親も学校も気づけなかった子どもの宝を探す場所」という宮嶋さんの信念に、人間の可能性を感じ取れる。

週刊朝日 2013年7月26日号