10分あれば書店に行きなさい、と私も思います。「その通り!」と叫びたくなるほど。が、表紙を見るとどうも、私の考える本屋礼賛とは違うような……と思って確認のために買ってみた。やはり違っていました。これは一種の自己啓発本ですね。書籍や雑誌を見て「知性と精神力を磨」き(第1章)、「アイデアの宝庫」(第2章)からさらに良いアイデアを思いついて、人生の勝利者になろう!
 私も本屋好きだからわかるんだけど、本が好きで本屋にすぐ行っちゃうのって、スロットが好きでパチスロ屋に入りびたるのと、行動としてはナンの差もない。パチスロに夢中で車内の子供が死ぬのはニュースになるけれど、立ち読みに夢中で子供が死んだ事件だってあるはず。叩きづらいからニュースにならないだけ。立ち読みしてたのがロリコンエロ漫画だったらニュースになるかもしれませんが。
 世間ではパチスロ屋はよくなくて本屋ならいいという風潮があり、本屋に行くべきだという思い込みもある。「どうですか齋藤先生! 本屋に行く気になるのをひとつ! 『声に出して読みたい日本語』の著者として大いに本屋を盛り上げましょう!」と言われて、「オレ本好きだし、本屋楽しいし、イイネ!」と引き受けたのではなかろうか。でも、この本を読んでみると、齋藤さんは本屋に「行かねば」とは考えたことすらない、ただそこが面白いから本屋に入りびたる人なのだ。そういう人には「本屋に行くことを義務と考える=イヤイヤ行く人」の気持ちなどわからず、いざ書こうとすると「え?……どうして本屋行かないの?」となり、しょうがないから実利的な、ビジネス本ぽい内容になっちゃったんではなかろうか。
 本屋を好きになりたい人へのアドバイスとしては「本屋はどうでもいいから、パチスロでもフラダンスでもなんでも好きなことに熱中してなさい。その熱中の気持ちがいつか本に行くかもしれないので、その時に本屋に通えばよろしい」と言うしかないと思います。

週刊朝日 2013年1月25日号