繁殖牛の権利を販売する和牛オーナー制度で出資を集めた安愚楽牧場が経営破綻したのは記憶に新しい。オーナーから募った総額は4200億円。経営陣が立件されれば戦後最大の詐欺商法事件に発展する。ただ、立件されても疑問は残る。なぜ今まで杜撰な経営が放置されてきたのか。本書は共同通信記者である著者が取材体験をもとに詐欺事件がなくならない構造を解き明かしている。
 著者は詐欺事件こそ調査報道だと指摘する。安愚楽牧場の件でも貸借対照表や損益計算書を眺めるだけで矛盾がぼろぼろと出てくるという。公開資料だけで詐欺の内側に迫れるのだ。逆に地道な情報の積み重ねが必要であるからこそ、記者は取材に取り組まず、警察も詐欺事件を敬遠しがちだ。似たような詐欺が繰り返される理由も警察の捜査効率にある。
 興味深いのは著者の本職が事件取材ではない点だ。詐欺事件を取材してきたのは仕事の合間。政治家の腐敗追及も大事だが、消費者の視線に立ち続ける「詐欺専門記者」が一社に一人はいてもいいかも。

週刊朝日 2012年10月26日号