撮影:王華
撮影:王華

50年後、100年後はこんな風景は見られなくなってしまうかもしれない

 被写体は身のまわりの植物のこともあるが、基本は「原始の風景」。

「なるべく人工のものは入れたくないんです。だから都会に行ったときは、あまり撮らなかった」

「人間はもともと自然のなかで暮らしていたじゃないですか。ところがいま、世界中で都会化が進んでいる。そこに人間がどんどん取り込まれていって、こういう自然の、原始の風景を忘れているんじゃないかと思うんです。50年、100年後はこんな風景は見られなくなってしまうかもしれない。全部、コンクリートとかになってしまうのではないか。すごく悲しいですね。自分のそういう考えを写真にしたんです」

――でも、たいへん申し訳ないですけれど、いま中国では自然の大切さを忘れている人が少なくないと感じます(ちなみに、王さんは中国出身)。日本も昔は乱開発や公害がひどかったですけれど。

「あっ、それは反省しています(笑)。それで、この作品をつくったんです。私、スマホとかもコワいと思っていて。そもそも、スマホは人間のために作った、人間のために働いてくれるというか。だけど、いま人間はスマホに振り回されている。反省すべきだと思うんです」

いっぱい試したんですよ。100枚失敗して1枚できるって感じ

 しかし、なぜピンホールカメラで撮り始めたのか?

「はっきり写ったものは、私がみんなに見せたいもの、伝えたいものとは違う。私が表現したいものがつくれる道具がピンホールカメラだったんです」

「ピンホールカメラというのは写真の歴史の前からあったんです。私は美大で学びましたから、それを知っていて、自分でもやってみたいと思った」

 王さんの言うとおりだ。17世紀のオランダの画家、フェルメールは「カメラ・オブスクラ」を使用し、ファインダーのすりガラスに映った画像をトレースしたといわれるが、レンズのないピンホールカメラこそがカメラ・オブスクラの原形だった。

 最初、「遊びのような感じで」ピンホールカメラを自作したのは10年ほど前。金属板にさまざまなサイズの穴を開け、レンズとなる部分を作った。フィルムの代わりに印画紙をカメラに詰めて撮影した。

「本当にいっぱい試したんですよ。100枚失敗して1枚できるって感じ。撮影して、すぐに暗室で現像して。取り扱いはすごく難しかった。旅先で使うにも向いていませんでしたけれど、印画紙で写すのは面白い。好きですね」

撮影:王華
撮影:王華

いつも見ている感じとは違って見える。それを再発見してもらう

 2015年ごろからはピンホール作品をシリーズ化して本格的に写すようになった。

「いまは、木製のボックスみたいな感じの市販のピンホールカメラを改造して撮っています」

 撮影には三脚を使う場合もあるが、手持ち撮影をすることが多いという。フィルムは感度ISO100、200のものをメインに使っている。

 カラーとモノクロのフィルムはどう使い分けているのか?

「その場所に立って、見て、感覚でカラーがいいと思ったら、カラーで撮ります」

「みんなが見たことのある風景を『こんなふうですよ』と、再現する。いつも見ている感じとは違って見える。それを再発見してもらう」

――瀬戸内の写真を見ると、知っている風景だけに、新鮮というか。ああ、こんな感じだったんだ、と思いますね。

「ほんとですか。じゃあ、私の目的は一つ達成したと思いますよ(笑)」

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】王華写真展「Box of Dreams」
エプサイトギャラリー(東京・丸の内) 3月4日~3月17日