「その時々で子どもたちに何を教えたいのか、どう育ってほしいのかで教室も変わっていく。一方で、日本の教室には変化がないですよね」

 そう言われてみれば……。いつ訪れても「これこれ」「懐かしい」とノスタルジックな気持ちを抱かせてくれるのが日本の教室だ。その意味で、教室に“進化”がないのかもしれないが、一方で「一番面白いのも日本の教室」とナージャさんは笑みをこぼす。

「机を一番自由に動かせるのが日本です。実は他の国では、机が固定されていたり重かったりするのでほとんど動かさない。だから、日本の教室はどの教室にでもなれる可能性を秘めています。でも、そんな自由さを生かしている教室はあまりないように思います」

「にほんのがっこう」の教室 (c)Jun Ichihara
「にほんのがっこう」の教室 (c)Jun Ichihara

 確かに、記者が6年間通った小学校では5教科の授業でグループワークやディスカッションをしたことはなかった。先生の話を聞き、ノートを取り、教科書に線を引いた記憶ばかりが残っている。

「たとえば日本では私が授業についていけず、困っていても気にかけてはくれなかったんです。ですが他の学校は違って、注意深く見てくれる。ある意味、日本はシビアです。教える側も『同じであること』が大切なんですね」

 先生が一番重視しているのは誰にも「平等」であること。ナージャさんは日本でそう感じ取ったという。そして、こんな経験も。

「一人だけ髪の色が違うと悪影響になるからと染めるように言われたことがありました。フランスで培ったディスカッション力で『校則には染髪はダメだとあります』と切り抜けましたが……。でも、爪の長さも決まっていて、一度白い部分を残していたら『あなたが切らないとクラスの評価が下がります』と連帯責任になったり。でも、爪の白い部分を残してなぜダメなのか、その理由は教えてもらえない。日本には規則がたくさんあるし、それ自体が悪いことではありません。ですが、なぜそのルールなのかの理由がはっきりしない。もしかすると先生も分からなくて、暗黙の了解みたいになっているから気付いていないのでは」

 目の前にあるもの、定められたルールを当たり前だと受け入れることは“日本式正解”のようにも思えるが、その意識を変えるきっかけは「教室」に潜んでいるのかもしれない。(AERAdot.編集部・福井しほ)

■キリーロバ・ナージャ
ソ連(当時)レニングラード生まれ。数学者の父と物理学者の母の転勤とともに、6カ国(ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダ)の各国の地元校で教育を受けた。電通に入社後、様々な広告を企画。「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」で国内外の賞を100以上受賞。2015年、世界のコピーライターランキング1位に。その背景にあった世界の多様でアクティブな教育のことをコラムとして連載し、キッズデザイン賞も受賞。「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」設立。好きなものはゾウと冒険。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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