(c)西本喜美子 ※アサヒカメラ9月号より
(c)西本喜美子 ※アサヒカメラ9月号より

 本で暮らす西本喜美子さんは、いま最も有名なアラナイ(アラウンド90歳)かもしれない。“自撮りばあちゃん”として一躍有名になった現在90歳の写真家だ。ゴミ袋に入って苦渋の表情を浮かべていたり、物干し竿にぶら下げられたり、また車にひかれそうになったりしている、高齢者虐待!? と目を疑うような衝撃的な作品を目にした人も多くいるだろう。

【「アサヒカメラ」に掲載した“自撮りばあちゃん”の衝撃写真はこちら】

 西本さんが写真を始めたのは、70歳を過ぎてから。きっかけは、息子の和民さんが主宰する写真教室「遊美塾」に入会したことだった。和民さんは、これまでに東京で多くのアーティストのCDジャケットを手がけてきたAD、写真家で、地元熊本に約20年前に戻り、写真を教えている。「教室の生徒さんを実家に連れて行き、ご飯を食べながら撮影した写真をみんなで見ていたんです。そうしたら、母はこれまで考えていた写真の世界とは全然違うことに驚き、興味を持ったようです」(和民さん)

(c)西本喜美子 ※アサヒカメラ9月号より
(c)西本喜美子 ※アサヒカメラ9月号より

 5年前に亡くなった喜美子さんの夫、和民さんの父は写真が趣味で、一眼レフカメラで風景や花を撮っていた。「公務員だった父は真面目で融通が利かない性格。撮影について回っていた母にも、写真にはルールがたくさんあって難しいものという思い込みがあったようです」

 しかしながら、和民さんの教室は絞りやシャッタースピードから入る“従来型”ではなく、“感じられる写真”をテーマに生徒の個性に合ったアドバイスを重ねていく型破りなスタイル。これまでに見たことのない発想、視点で撮影された写真に開眼した喜美子さんを、そこに居合わせた生徒が教室に誘い入れた。

西本喜美子さん ※アサヒカメラ9月号より
西本喜美子さん ※アサヒカメラ9月号より

「翌日その人が車で迎えに来てくれて、強引に連れて行ってくれたんです(笑)」と喜美子さん。写真生活が、突如始まった。

「教室には通っているけれど上手くはないから、楽しく、面白くできればいいなあと思って。よく分からないから、そっちに逃げているの(笑)」

■目の前のものをあらゆる角度から捉える

 74歳で学び始めたPhotoshopを使ってユーモアあふれる自虐的な写真を創作する喜美子さんだが、実際に使いこなせるテクニックは数えるほどしかない。また、カメラはニコンD5500を愛用しているが、プログラムモードで撮影しているという。「フィルム時代は知識や技術が身についていないと写真を撮れませんでしたが、デジカメはシャッターボタンを押せば写る。必要と感じてから使い方を覚えるほうが効率がよいし、まずはどう撮るのかを考えることのほうが大切なんです」と和民さんが話すとおり、デジタル時代を迎えた現代だからこそ、喜美子さんの才能が開花したのであった。

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喜美子さん流アプローチとは?