日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「緊急避妊薬」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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先月末、厚生労働省は望まない妊娠を防ぐ「緊急避妊薬」を、処方箋なしに販売する調査研究を始める方針であることを発表しました。早ければ今年の夏から来年の春にかけて、都道府県ごとに最低1カ所設けられた一定の要件を満たす薬局で、その調査が実施される予定です。
「緊急避妊薬」とは、その名の通り、避妊に失敗したときに緊急的に内服する避妊薬のことです。性交渉から3日以内、ないしは5日以内に内服しないと避妊効果が期待できない薬であり、避妊に失敗してしまった場合や、そもそも避妊をしていなかった時に、緊急的な手段として翌朝に内服されることが多いことから、「モーニングアフターピル」や「アフターピル」とも呼ばれています。「こちらの名称の方なら聞いたことがある」という方も多いのではないでしょうか。
世界保健機関(WHO)は2018年、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性は、緊急避妊薬にアクセスする権利がある」として、必要とするときに手に入れることができるよう、複数の入手手段を確保するように各国に勧告しました。また2020年4月には、薬局での販売の検討も含めた緊急避妊薬へのアクセスを確保するように提言しています。
そのような働きかけもあってでしょうか。世界にはすでに市販化されている国や、処方箋がなくても薬剤師を通じて購入することができる国が多く存在しています。しかしながら、日本では、今の所、緊急避妊薬は市販では販売されていません。病院を受診し、処方箋を発行してもらわないと、緊急避妊薬を手に入れることはできません。その上、価格も1万円前後と高額です。
恥ずかしながら、私が薬局で緊急避妊薬を購入することが他国では可能であることを知ったのは、医師になってから4年目の秋のことでした。とある学会に参加するためにミャンマーのヤンゴンを訪問した際、会場近くにあったスーパーの中にある薬局に、緊急避妊薬が陳列してあるのをたまたま発見したのです。