ここでいったん、ジュン氏のスピーチは終わり、来場者や関係者と話す時間になった。
スピーチで「週刊誌の人」との言及もあったことから、筆者はジュン氏に名刺を差し出して話しかけてみたが、「名刺は受け取らない」と言われ、話は聞けなかった。
その後、キャンドルナイトが閉幕を迎える段になると、ジュン氏は再び、来場者に向かって呼びかけた。
「みなさんでこうやってたくさんの火を囲んで、すてきな時間を過ごせたことが何よりだなと思っています。毎月11日に福島でキャンドルナイトをしています。(東日本大震災の悲劇は)まだ終わってないし、家族、子ども、友人もつらい思いをしている。丸く灯をともしているので、みんなが集まれば人の輪ができます。人が輪になれば、つながることができますし、みんなの顔を見ることができます。それが平和というものだとアメリカのインディアンの人に教わりました」
ジュン氏の提案で、イベントは一本締めで締めることになった。
するとジュン氏は振り返って、笑いながら筆者の顔をみると、手招きしながらこう言った。
「どうぞどうぞ、記者の方どうぞ。隣にどうぞ」
期せずして、筆者がジュン氏の隣に呼ばれることになった。先ほどは名刺を受け取ってくれなかったが、顔を覚えていてくれたらしい。照れくさかったが、手招きされるままに、ジュン氏の隣に立った。
「何度も言いますが、インタビューは受けませんが、こうやって(あなたを)選んでここに来てもらっているので、一本締めを一緒にしましょう」
とジュン氏が言うと、会場からは拍手が巻き起こった。
「2023年6月21日、代々木公園。みなさんの心に平安を、お手を拝借。よおー、ハッ」
というジュン氏のかけ声の後、一本締めの音が響いた。
イベント後、報道陣とおぼしき人物が見当たらないタイミングで、ジュン氏に「売名行為」の真意などについて聞こうとしたが、
「インタビューは受けないって言ってるじゃん。空気わかんない? あなたと向き合う時間はないんですよ」
と厳しい言葉で拒否されてしまった。近くにいたスタッフも「今はセンシティブな時期なので……」と申し訳なさげだった。
取材には答えてくれなかったが、なぜか筆者のことは覚えていて、一緒に一本締めをやろうと指名をしてくれたジュン氏。意志の強さと柔軟さ、厳しさの裏にある思いやり……物事を一面的にとらえないところは、やはりアーティストなのだろう。
キャンドル・ジュンという人間の奥深さが知れた一夜だった。
(AERA dot.編集部・上田耕司)