※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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「年齢よりも若く見える」患者に出会う――。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は日々の診療で、その若々しさは肌の表面以上の何かからきているのではないかと感じていました。あるとき、その答えにたどり着いたといいます。大塚医師が肌の表面だけでは説明がつかない若々しさの理由について語ります。

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 皮膚科の診察室で、時折出会うのが「年齢よりも若く見える」患者さんたちです。彼らの若々しさは、一見するとシワやシミのなさ、白髪の少なさ、健康的な体形など、外見的な要素によるものと思われがちです。しかし、彼らの話を聞いていると、その若々しさは肌の表面以上の何かからきているのではないかと感じていました。ただ、それが一体なんなのか、長年わかりませんでした。

 私は何年か前から、皮膚科診療に心理学の視点を取り入れています。心理学を勉強し臨床に応用していく中に、「肌の表面だけでは説明がつかない若々しさ」に対する答えがありました。それは「プライミング効果」と呼ばれるものです。

 プライミング効果とは、ある刺激を受け取った後に、それに関連する他の情報や刺激への反応が影響を受ける現象を指します。これは、情報処理のスピードや精度、あるいはその後の判断や行動に影響を及ぼすことがあります。

 例えば、ある研究では、参加者に高齢者を連想させる言葉(「シワ」「白髪」など)を見せたところ、その後の行動に影響が出ました。具体的には、これらの言葉を見たグループの人々は、その後、歩く速度が低下したのです。これは、高齢者についてのステレオタイプ(例えば、動きが遅い)がプライミングとして働き、参加者の行動に影響を与えたと考えられます。

 また、別の研究では、クリーナーの香りをかいだグループの人々が、食事後に机の掃除をより多く行ったという結果が得られました。これは、クリーナーの香りが「掃除」や「整理整頓」に関連する情報を活性化し、その結果、行動に影響を与えたと考えられます。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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プライミング効果は大きな影響を与える力強いツール