■「人生の師」は長渕剛

 だが、市原の俳優人生はすべて順風満帆だったわけではない。20代のころは役者として苦悩を抱えていたようだ。映画ライターはこう語る。

「若手俳優としてブレークした20代前半には撮影のプレッシャーがすごかったようで、当時は涙が止まらなくなったり、嘔吐(おうと)してしまったりすることもあったとSNSで告白しています。そこで頼ったのが、市原が慕う長渕剛。市原の悩みを優しく包み込むように受け止め、背中を押してくれたと語っています。ともに肉体を鍛え上げ、語り合うことで、心身ともに研ぎ澄まされていったのだと思います。今、俳優としてとてもいいポジションにいる市原ですが、人生の師ともいえる長渕の存在が転機になったのは確かでしょう」

 市原は過去のインタビューで「役者は感情が商売道具なので、役をいただいたら、もうそのことしか考えられなくなる。人生の3分の2くらい、私生活でも役のことを考えているので、少し寂しいと感じることもあります」(「ハルメク365」22年5月15日配信)と語っていた。相当ストイックな性格のようだが、だからこそ、主演であれ脇役であれ、スタッフから評価され、役者として重宝されているのかもしれない。

 ドラマウォッチャーの中村裕一氏は市原の魅力についてこう分析する。

「確かに『鎌倉殿の13人』や『教場』などでの熱演、怪演は話題になりましたが、おそらく彼自身は演技や役柄に真摯に向き合っているだけで、『爪痕を残してやろう』などという意識はないはずです。とにかく真面目で誠実な性格で、サービス精神にあふれ、周りとズレていてもどこか憎めない……これらがむしろ本当の姿なのではないでしょうか。鋭い日本刀のようなたたずまいも十分にかっこいいのですが、良い意味で昭和の俳優の趣を感じさせる彼が本領を発揮するのは、コメディーだと思います。なので、10月スタートの『おいしい給食』のシーズン3は非常に楽しみですね。彼の主演作の中でも傑作といえるドラマ『明日の君がもっと好き』のような、真面目で熱心だけど、どこかユーモアが漂う人間味あふれる役をもっと見てみたいですね」

 年齢を重ねるたびに変化する市原の演技を、これからも堪能したい。

(雛里美和)

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雛里美和

雛里美和

ライター。新宿・十二社生まれの氷河期世代。語学系出版社から邦ロックシーンを牽引するライブエージェント(イベンター)を経て、独立。教育からエンタメまで幅広い分野で活動する。

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