■弟への隠された思い

 兄と一緒にいたいという理由で、「鬼食い」をする玄弥の心は、遊郭の鬼・堕姫と妓夫太郎と少し似ている。死にかけている妹の梅を救うために鬼化を承諾した妓夫太郎。遊郭の兄妹は、互いが「人間としての生」を捨てようとも、離れ離れにならないことを選択した。しかし、不死川兄弟の場合、「自分だけが鬼狩りの剣士として戦う」という実弥の意志が強すぎるがあまりに、「兄と一緒にいたい」と願う玄弥の思いを断ち切ってしまった。

 これから後、実弥と玄弥を取り巻く鬼との戦いは激化の一途をたどる。弟を鬼狩りの道から遠ざけようとする実弥の思いと、兄のために戦いたいという玄弥の気持ちのどちらの意志が貫かれるのか。今後の展開を見届けたい。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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