そんな中、先日、脚本を提供する舞台の、キャストオーディションがありました。

 年に一度、若い俳優たちに力試しの場を提供しようとの企画で、「ラフカット」という公演。今年でなんと29年目! 毎年4人の作家が30分の短編戯曲を提供し、キャストは全員オーディション。何を隠そう、僕も26年前、この公演のオーディションを受け、舞台演出家の鈴木裕美さんや堤泰之さんと出会い、俳優としてのキッカケをつかみました。

 今年6月に本番を迎える「ラフカット 2023」では、僕は4人の作家の1人として、16年前に書いた短編脚本を提供しています。その僕の脚本に出演するキャストのオーディションがあったのです。

 オーディションに参加してくれた俳優たちのほとんどは、20代30代といった若い方々。

 正直に申し上げて、合格した皆さんも、残念ながら今回は不合格だった皆さんも、50代60代70代になっても俳優をやり続ける人は、おそらくほんの一握りだと思います。というか、そんな偉そうなことを言ってる僕だって、一寸先は闇です。

 ただ思うのです。

 中には稀に、なんの苦労もなく、スイスイとうまくいっちゃう人もいて、そういう人は心の底から羨ましいし、そういう運も味方に引き寄せるのはその人の実力と言ってもいいと思うし、素晴らしいことだと思うんですが、

基本、ぐちゃぐちゃでエエでないの。

 ぐちゃぐちゃで、めっちゃウジウジで、めっちゃクヨクヨでエエでないの。

 そういう若い頃の信じられないくらいの苦悩が、いつか花を咲かせる、なんて無責任なことは言えないし、その花だって一握りの人しか咲かないかもしれないけど。

 君たちがこのあと俳優を続けようと、別の世界に行こうと、そのぐちゃぐちゃやウジウジやクヨクヨは、きっと君の人生にいつか彩りを添える。

 そんな青臭いにもほどがあることを、2人の敬愛する先輩と語り合いながら、たくさんの若い粗削りの俳優たちをオーディションしながら、思ったのでした。

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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