村元は「メリルとチャーリーの『オペラ座の怪人』は、マリーナ・ズエワコーチの(振り付けた)プログラム。私の大好きなプログラムだったので、『いいんですか?』というところから始まった」と振り返る。

「自分の中では『記憶に残る演技をしたい』というのがずっとスケート人生の目標で、それができたかなと。今は『本当に挑戦してよかったな』と思います」(村元)

 デイビス&ホワイトのプログラムの印象は高橋にも鮮明に残っており、それ故プレッシャーがあったというが、曲に対する思いがそれを上回った。

「それ以上にこの曲が好きで、そこはあえて考えずに。自分たちらしい『オペラ座の怪人』を求め続けてきて、それがやっと形になってきたので。結果的に、この選曲をしてすごくよかったなと思います」(高橋)

 一夜明け会見で「シングル時代にやっていたオペラ座の怪人を、この一年やってみていかがでしたか」と問われた高橋は「全然そういうつもりがなく『オペラ座の怪人』を滑ることにはなったのですけれども」と語っている。

「やっていくうちに、自分にとっては『運命的なものにつながっているな』という感じで。『オペラ座の怪人』を滑ることは結果として運命的なものだったのかな、というような演技ができた」(高橋)

 シングル時代の高橋が滑り、そして師が手がけた名作の曲でもある『オペラ座の怪人』に挑んだ2人。今季は、彼らにしか滑れない『オペラ座の怪人』を創り上げる道程でもあった。

 高橋は来季の動向について明言していないが、一夜明け会見では、前日のバンケットで数人のジャッジに「アイスダンサーになったね」と声をかけられたと明かしている。

「『続けるよね』みたいなことを、めちゃくちゃ言われたんですけど」(高橋)

 運命のプログラム『オペラ座の怪人』に背中を押され、高橋はさらに先へと進むのだろうか。(文・沢田聡子)

●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」