生活費支援や住居の無料提供について、取材したウクライナ人はみな、感謝の言葉を口にした。あるウクライナ避難民はこう話した。

「ウクライナにいるお父さん、お母さんは戦争で仕事がないから、アルバイトをして日本から送金しています。円はレートが安くなったけど、しょうがない。家族はウクライナにいるから寂しくて、帰りたくて、戦争が早く終わってほしい」

 日本では国などから生活費の援助があるとはいえ、祖国が戦争に巻き込まれ、異国の地で家族と暮らすことは、大きなストレスを伴う。

 日本のウクライナ避難民にカウンセリングを行っている全国心理業連合会(全心連)は、ロシア侵攻1年になる今年2月、日本に住むウクライナ人を対象に心理調査を実施した。トラウマケアに詳しい兵庫教育大学名誉教授の冨永良喜氏はこう話す。

「アンケートには、『なかなか眠れない』『怖い記憶を繰り返し思い出す』『怖い夢を見る』『今の生活が本当のことと感じられない』など、極めて高いストレス反応が見られます。家族や友人はまだウクライナにいるので、その死の恐怖や自分だけ安全なところにいる罪悪感がずっと持続しているわけです。その状態が続くと、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)になってしまう可能性もあります。日本で生活や心理サポート、交流会などで人ととの絆を深め、自分の力が発揮できる場所ができ、日本やウクライナの役に立てると実感したりすることは、心の健康にとっても、非常にいいことだと思います」

 気丈にふるまっていても、やはりウクライナ避難民の心は深く傷ついていることを、私たちは忘れてはいけないだろう。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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