米軍は米本土上空の中国偵察気球を撃墜し、残骸を回収した。画像はイメージ(写真:AP/アフロ)
米軍は米本土上空の中国偵察気球を撃墜し、残骸を回収した。画像はイメージ(写真:AP/アフロ)

 米国上空に現れた気球を、米軍機が撃ち落としたというニュースを耳にしたとき、「百獣の王ライオンはウサギ1匹を捕まえるときでも全力を尽くす」という、子どものころに人気漫画で読まされた名ゼリフを思い出した。

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 気球撃墜に用いられた戦闘機はF22ステルス機。米国が海外に売ることを控えるほどの最新鋭機を用いたことに驚いた。しかも、米メディアによれば、使ったミサイルがAIM9Xサイドワインダーという1発50万ドル(6700万円)近くもする超高価な空対空ミサイルだった。

 別に米国が百獣の王だと言いたいわけではない。ただ、気球の値段は1機につき1000万円以内とされる。反撃も絶対にしない、空をふらふら漂うだけの廉価なターゲットに、米国が最新鋭の戦闘機とミサイルで対処したというのは正直かなり不思議なことで、どんな意図があったのか興味深いところである。

 もちろん高高度を飛行する気球に対して、高度飛行能力に優れたF22を出撃させたというのは理にかなっていなくはない。

 だがそれよりも私はやはり「米国本土を侵す相手には、我々は徹底して反撃する」ということを見せつける米国の意図があったのではないかと勘ぐりたい。それほどまでに、今回の撃墜は、撃つほうと撃たれるほうの「価値」は非対称であり、「大砲で蚊を撃ち落とす」(台湾メディア)という印象を残した。逆に言えば、撃墜は国内外に見せるためのショー的要素を十分含んだものだった。

 気球は、古くて新しい軍事アイテムである。第1次大戦から戦後の冷戦初期にかけて、各国の軍隊は気球を活発に利用した時期があった。

 中国は逆に気球をよく飛ばされていた。飛ばしたのは、台湾海峡の対岸にある台湾で、目的は偵察ではなく心理戦だった。台湾国防部の資料によれば、1954年から1962年まで積極的に気球作戦が展開され、中国の民衆に向けて「台湾は自由で生活レベルが高い」ことなどを宣伝するビラや写真が満載されていた。

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気球の出発点は中国の「軍事の島」