評論家の荻上チキさん(左)と漫画家の菊池真理子さん
評論家の荻上チキさん(左)と漫画家の菊池真理子さん

 昨年7月、安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也被告(42)が殺人などの罪で起訴された。山上被告は、母親が入信する「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」に「人生をめちゃくちゃにされた」と激しい恨みを募らせ、同団体と安倍氏の関係を知って恨みを抱いたことが動機の一端とされている。山上被告は信者の子ども、いわゆる「宗教2世」だが、その実情はほとんど知られていなかった。

【写真】安倍晋三元首相を銃撃後、SPらに取り押さえられる山上徹也被告

 今回、銃撃事件直後に宗教2世に対する詳細な調査を行い、その結果を編著『宗教2世』(太田出版)にまとめた評論家・荻上チキさんと、自身も宗教2世で、多くの2世の体験を描いた『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』(文藝春秋)を刊行した漫画家・菊池真理子さんの2人が対談し、問題の本質や解決への道筋について語った。前編後編に分けて届けます。

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――お互いの著書を読んでどう感じましたか?

荻上チキ ぼくは菊池さんの漫画が出版社のWebサイトで連載されていたときから読んでいました。

菊池真理子 ありがとうございます。

荻上 さまざまな宗教2世の実体験がルポ形式で描かれて、教団の違いによる宗教2世の多様さがわかりやすく伝えられています。信者を親に持つ子どもたちが成長の過程で、家庭や信者のコミュニティー、学校と、さまざまな場面でどのような風景を見てきたのかが丹念に描かれていて、とても力強い作品だと思いました。

菊池 うれしいです。

荻上 2000年代ごろからアルコール依存症や発達障害など、さまざまなテーマを当事者自身が語る「当事者漫画」が出てきました。その流れで、ネガティブな「宗教体験」を告白する作品も相次ぎました。他の当事者漫画と違って、宗教2世の体験はさまざまなリスクを背負いながら描かざるをえません。親子の傷をより深めてしまったり、教団との訴訟リスクを抱えたりすることになります。この本が出るまでに紆余(うよ)曲折があったのも、ある意味、リアルだと感じました。

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日本における宗教2世問題とは