あの頃は本当によく飲んでいたけど、楽ちゃん、岡ちゃん以上に親しくなった人はいないなぁ。プロレス相撲の世界と違ってみんなで飲みに行く慣習はなかったし、日本に来ている外国人レスラーもリング降りたら個人主義で、飯に誘ったりするのはタブーだって、プロレスに転向してから知ったよ。

 だからといって仲が悪いわけではなく、引退した後もスタン・ハンセンが来日するとちょこちょこ顔を合わせたりしていた。今は俺のからだの調子のこともあって頻繁に会えるわけではないが、スタンは元気でうらやましいよ。肩や膝が悪くなっても早めに手術して、今じゃあ万全の態勢。やっぱり賢かったね。スタンとブルーザー・ブロディは「プロレスはいつまでも続けられる商売じゃない。続けられると思っているのは日本人だけだよ」といって、彼らは引退後のための資産形成をしっかりしていたからね。

 一方の俺は「好きなプロレスで飯が食えるならいい」って、それだけで突っ走ってきて、今では、ボロボロのからだしか残ってないよ。65歳までプロレスをやっていたのはただの意地。相撲からプロレスに転向して、途中でダメになって辞めたなんて言われたくないから、そこまでやれたってのが正直なところだ。

 晩年は「俺なにやってんだろう」という気持ちも出てきたし、引退を勧められたこともあったが、年を取れば取るほど、周りも「そういうこといっちゃいけない」という雰囲気になって、誰も何も言わなくなった。引退を決意したのは女房の具合が悪くなって俺が支えなきゃと思ったからだ。振り返ってみると最後まで家族のためという思いが強かったね。

 引退したらしたで、今度は「人の心配するくらいだったら、自分の心配をしろ」という状況になってしまって、本当にプロレスという職業は割に合わないよ。からだへのダメージも大きいし、ハンセンみたいにコツコツ貯蓄して財産を残せる人も稀で、ほとんどなにも残らないんだから。それなのに令和の今でもプロレスで頑張っているレスラーを見るのは心強い。こんな危ない商売で、こんなギャラで、待遇で、キツイことをどうしてできるのだろうか……。彼らには頑張ってほしいし、いい思いもしてほしいと思っている。

次のページ
令和のプロレスはどうなるか?