3歳の時、里親家庭との交流が始まった。家族全員を紹介されて「うちの仲間になってくれたらうれしいな」と言われた。何度も交流するうちに仲間になってもいいかなと思うようになっていたという。

養育里親の里親研修と登録の流れ(厚生労働省 里親制度資料集から)
養育里親の里親研修と登録の流れ(厚生労働省 里親制度資料集から)


 
「乳児院にいた時、私はさみしかったです。家族というものを知りたかったし、家族が欲しかったから、里親家庭のところに行きたいと思い、自分で決めて『仲間になる!』と言ってみました」
 
 小春さんは、里親家庭と暮らしだしたころ、夜中に里親の部屋に行って枕元に立つようになった。驚いた里親に「どうしたの?」と聞かれると、小春さんは「いるかなと思って」と答え、確認して自分の部屋に戻った。これを2週間ほど続けていたという。

 小春さんは言う。
 
「乳児院では、職員が時間ごとに代わるからさみしかった。里親は、本当にずっといるのか不安でした」
 
 食べ物についてはいくつも“事件”が起きた。
 
 初めてのお泊まりの時に里親から何が食べたいかと聞かれて、「たこ焼き」と答えた。しかし、クルクル回して作ってもらった丸い食べ物に困惑した。その様子を見た里親は「もしかして、たい焼きだった?」と聞き返した。翌日、たい焼きを買ってきてくれた。中身が黒くて、さらに困惑した。
 
「乳児院で、親と面会して戻ってきた子から『たこ焼き』という単語を聞いたことがありました。でも、一度も食べたことがなかったから、たこ焼きもたい焼きもわかりませんでした。しかもタコもあんこも嫌いでした(笑)」(小春さん)
 
 乳児院の献立には出てこない食べ物。一般家庭ではじめて遭遇した。
 
 こんなこともあった。里親家庭での朝食はそれぞれ好きなものを食べていた。実子の姉たちの好物は納豆ご飯。2人ともおいしそうに食べていたが、小春さんは納豆嫌いだった。「苦手なものは食べなくていいよ」と言われていたが、1年半も「好き」と言い続けて食べていた。
 
「お姉ちゃんたちは納豆が好きだから、仲間になりたくて、好きと言い続けていました」(同)

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納豆巻きは大丈夫……