気象庁の担当者はこう話す。

「深部低周波地震の増加は噴火の前兆と言えるほどには増えていません。地殻変動については、東日本大震災の影響で大きく動き始めましたが、いまは収まりつつあります。近年は大きな変動はなく、こちらも噴火の前兆は見られません」

 予兆がないのに噴火すると言われているのはなぜか。

 富士山研究の拠点である山梨県富士山科学研究所の本多亮・主任研究員は「富士山の噴火の兆候は、現時点ではない」と断言するが、「いつ噴火してもおかしくはない状況」と話す。

 本多さんによると、噴火のリスクを見るときのポイントは二つあるという。

 一つは、地震の状況や地殻変動などのデータだ。気象庁がいったように、ここのデータで目立った変化は見られない。そしてもう一つは火山の活動履歴だ。地質や文献などを調査し、これまでどういった活動を繰り返してきたのかを見て、判断するという。

 実際に噴火した最後は1707年の宝永の大噴火だが、現代から噴火活動が活発だった5600年前までさかのぼって地層を調べると、約180層の噴火の堆積物が確認されている。つまり、富士山はこれまで約30年に1回の頻度で“噴火”しているということだ。本多さんはこう説明する。

「富士山は定期的に噴火してきたわけではありませんが、平均すると30年に1度の頻度で噴火してきました。それが1707年を最後に300年間も休んでいる。そこから『いつ噴火してもおかしくない』という見解が出てきています」

 その上で本多さんがこう続ける。

「現時点で噴火の前兆は見られていませんが、『富士山がとうとう噴火するかもしれない』という状況がこれまでに2回ありました」

 1回目は、2000年の後半に見られた深部低周波地震の急増だ。先述したとおり、マグマの動きと関係があるとされる地震だ。富士山では年間100回程度観測されるが、00年10月だけで133回と増加。その後、11月に221回、12月に142回と推移した。

次のページ
2023年の富士山噴火シナリオとは?_