Aさんには「危険な犯行」をした形跡もなく、理解が足らなかっただけとしか感じなかった。

 元東京地検検事の落合洋司弁護士は、

「警察は職務質問で『はさみ所持の正当な理由がない』と検察に書類送検したのでしょう。検察は、簡易裁判所の事件なら、副検事、事務官が担当する。それで決裁をとり、検討を十分することもなく、どうせ認めるだろうとの予見で起訴したと思います」

 との見解を述べ、こう続けた。

「しかし、被告人に知的障害があり、違法性の認識が十分にあったかどうかわからない、実害もない、過去に犯罪行為もないというなら、起訴猶予にすべき事件ではなかったのか。そこに福祉が入ってAさんをケアすることこそが大事だった。たった0.86センチ長いはさみを持っていて、有罪で罰金刑というのは、社会通念からして違和感がある。検察には社会の常識を考慮して判断することが求められているはずだ」

 仮に、長かったのが1ミリや2ミリでも、裁判所は「刑事責任は重い」と断罪するのだろうか。

(AERA dot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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