大阪府警八尾署
大阪府警八尾署

 0.86センチーー。この長さが「天国」と「地獄」を分けた。

【写真】Aさんが職務質問を受けた駐車場



「100均で買ったはさみを車にいれっぱなしにして、警察に摘発されて裁判になって有罪になるとは」

 こう話すのは、軽い知的障害があり、障害者施設で働いている大阪府在住の40代の男性、Aさん。

 ことの発端は、昨年11月27日深夜。Aさんはドライブに行こうと、自宅近くの府営駐車場に車をとめ、行き先を考えていた。そのとき、大阪府警八尾署の警官から職務質問を受け、車内からはさみが見つかった。

 Aさんによると、購入商品のタグを切るために買ったもので、使い終わったら車のドアポケットに入れっぱなしにしていた。警官は、ノギス(物の幅や長さを正確に測るための工具)まで持ってきて、刃体の長さを詳細に計測し、8.86センチと計測。銃刀法で定める長さより0.86センチ長かった。

 警官から任意同行を求められて取り調べを受けた。

 警官は、任意提出させたはさみについて、

「鋼質性、鋭利性がある」

 などと、Aさんの供述調書を作成。その後しばらく何の連絡もなかったが、約2カ月後の今年2月、八尾署から呼び出しを受け、府営駐車場などで現場確認をさせられた。検察にも出頭を求められ、検察調書を作り、銃刀法違反の罪で起訴された。

 東大阪簡裁で7月、第1回公判が開かれた。

 検察は冒頭陳述で、

「八尾署の職務質問ではさみを発見される1週間前、同じように堺市内でも警官に違法性を指摘されているが、車内に置き続けた」

 と指摘し、有罪にすべきだと主張した。

 一方、Aさんの代理人の弁護士は、はさみを車内に置いていた事実関係は認めた上で、

「堺市内のとき、警官は『危ないからはさみは車からおろすように』と言っただけ」

 などと反論。

「刃体の長さは8センチより0.86センチ長いだけで、一般的な事務用のもの」

「違法である認識もなかった」

「Aさんに障害があることを、警察や検察は認識しながら、病状の照会もせず供述調書などにも、まったくそこに触れていない」

 などと主張した。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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