写真:著者提供
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■きれいに言えなくても、気持ちは声に乗る

 では、別れ際に意識すべきなのは何か。それは、自分ではなく、相手のこと。

 貴重な時間を割いて、話をしてくださった相手に対して、最後に必ず感謝といたわりの気持ちで締める習慣をつけること。

 例えば、担当している番組で鎌倉のさまざまなお寺に電話をつないで、お坊さまにインタビューするコーナーがあるのですが、別れ際に心が洗われるようなお言葉をかけてくださいます。とくに印象に残っているのは、鎌倉市西御門にある来迎寺副住職(ご出演当時)の林陽善さん。

「コロナ禍における今、なかなか思うように物事が進まず、みなさまも大変なご苦労があったことと思います。私たちお寺も、行事やご法事などがままならないことが多々ありました。苛立ちが隠せなかったり、正直、もう投げ出したくなることもあるかと思います。ですが、そんなときこそ、『誰かのせいで、何かのせいで』と思わず、『お陰さまで』と思うことで心の持ちようも変わってくるのではないでしょうか。『和顔愛語』、人には穏やかな表情で、愛ある言葉を心がけていきましょうね」

 電話越し、時折聞こえてくる鳥の声とともに、秒刻みで進行をしていた緊張感もほどけていくようでした。

 形だけを取り繕った表面的なあいさつではなく、日々当たり前のように実践されている人だけが持つ、穏やかな説得力。

 本当に心が動くと、その感動はなかなか言葉にしづらいのですが、そのときは、じーんとしながら「今朝は、心が動く素晴らしいお言葉をいただきました」となんとかお伝えすることができました。

 詰まっても、言い淀んでしまっても大丈夫。相手に気持ちを伝えることが目的なのですから。気の利いた言葉でなくても、感謝と敬意は必ず声に乗ります。

 他にも、これまで思わず口からこぼれ出たお礼の言葉としては、

<お話ししていると、私もこうしちゃいられないと思いました>
<新しいモノの見方を教えていただいて、肩の力が抜けました>
<帰ったら早速、家族や友人にも伝えます>

など。「相手の言葉で自分の心がこのように動いた」という具体的な一言も入れると、感謝の気持ちもより一層伝わります。

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