順天堂大学医学部呼吸器外科学講座主任教授の鈴木健司医師も、情報の偏りを挙げる。

鈴木健司医師
順天堂大学医学部呼吸器外科学講座主任教授
鈴木健司医師 順天堂大学医学部呼吸器外科学講座主任教授

「今はSNSが全盛で、事実と異なることがあっという間に広がります。自分自身の判断ではなく、人の口コミに左右されてしまう。外科の本質や本当の魅力が、なかなか伝わらないのです」

 また富山大学学術研究部医学系消化器・腫瘍・総合外科教授の藤井努医師は、精神論的なこだわりの強さも理由の一つではないかという。

藤井 努医師
富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科教授
藤井 努医師 富山大学学術研究部医学系 消化器・腫瘍・総合外科教授

「今までの外科医は、自分が手術をした患者さんは土日も正月休みもなく365日顔を見に行くのが当然、といった精神論を声高に言うことが多々ありました。そういったことも、若い医師を遠ざける原因になったのではないでしょうか」

 また、収入面の問題も無視できない。勤務医の場合、基本的には勤務する医療機関から給料が支払われる。同僚の医師たちよりも多くの業務をこなしているのに給料の額があまり変わらなければ、働きが認められていないと感じ、外科を選ぶことをためらう心情はよく理解できる。

■働き方改革への期待と不安

 外科医の不足は大学病院でも顕著で、今後への不安は非常に大きいという。

「今は大学病院に研修医が大勢残る時代ではなく、かなり厳しいですね。当院でも、例えば食道がんと胃がんの手術が重なった場合など十数人いる消化器外科の医師がほぼ総出になってしまい、余裕がない状態です」(安田医師)

 中堅の医師が増えていないことへの不安もある。

「外科が花形で大勢いた時代の先生方がこの数年で定年になり、一気に辞めていかれます。おそらく多くの病院で、外科を維持することが難しくなるのではないかと危惧しています」(藤井医師)

 このような状況の中、24年4月からの時間外労働規制により、今まで無理してやりくりしていた勤務時間の上限が法律で規制されることになる。

 時間外労働規制は、一般の勤務医を対象とするA水準、救急医療や在宅医療など緊急性の高い医療に従事する医師を対象とするB水準、臨床研修医や専攻医など短期間に高度な技能や能力を習得する必要がある医師を対象とするC水準の三つに分けられる。A水準は年960時間以下/月100時間未満、B水準とC水準は年1860時間/月100時間未満と定められ(すべて休日労働を含む)、全水準とも月の上限を超える場合には、「連続勤務時間制限28時間」「勤務間インターバル9時間の確保」「代替休息」の三つをセットにすることが義務(A水準は努力義務)とされる。

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結果的には患者の不利益につながる