映画「はい、泳げません」は、渡辺謙作監督が脚本も担当。高橋秀実さんの同名ノンフィクション(新潮文庫刊)が原作だ/(C)2022「はい、泳げません」製作委員会
映画「はい、泳げません」は、渡辺謙作監督が脚本も担当。高橋秀実さんの同名ノンフィクション(新潮文庫刊)が原作だ/(C)2022「はい、泳げません」製作委員会

 このたび拙著『はい、泳げません』(新潮文庫)が映画化された。同書は水恐怖症の私が水泳教室に通い、鬼のように厳しいコーチから指導を受け、「なぜ泳がなければいけないのか?」「泳ぐとは何か?」などと疑問を抱きながら、泳ぎを習得していくノンフィクション。全編水中の様子を綴った実録であり、ストーリーとしては「泳げない私が泳げるようになった」という展開しかないのだが、渡辺謙作監督はこれを「記憶と再生の物語」に昇華させたのである。

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 聞けば、文庫本のあとがき(高橋桂コーチ、同じレッスンを受けた小澤征良さんとの鼎談)にある私の「泳げない人間というのは、愛に対する不安があるんですよ」というたった2行の発言をふくらませたらしい。泳げない人は愛する人が溺れている時に飛び込んで助けに行けない。つまりは人を愛せないのではないかと漠然とした不安を抱えているという発言なのだが、それを水難事故で息子を失ったトラウマに苛まれて記憶喪失に陥った主人公が水泳コーチに導かれて再生するというストーリーにしたそうで、私は監督のチャレンジ精神に心を打たれた。そして長谷川博己さん、綾瀬はるかさんという超豪華な共演。さらに歌唱力抜群のLittle Glee Monster(リトル グリー モンスター)が主題歌「生きなくちゃ」を熱唱し、試写室で鑑賞した私は不覚にも落涙した。

 これは間違いなく感動作。大ヒットして原作者の私にも取材が殺到するにちがいない。カンヌ映画祭も夢ではなく、これは忙しくなるぞ、などと身構えていたのだが、全国封切りからわずか数週間で上映は打ち切られていた。特に取材の依頼もなく、気がつくと上映終了。あっという間に終わってしまったのだ。

 なんで?

 単に観客が不入りだったことが原因のようなのだが、それにしても判断が早すぎやしないだろうか。そういえば当初からSNS上では「観客少な」「2人しかいない」「大コケ」などと書き込まれていた。感想を読んでみると「コメディなのかシリアスドラマなのかよくわからない」「見どころはどこ?」「何が言いたいのかよくわからない」「メッセージを受け取りにくい」「共感できるポイントがない、お客さんもいないし」などと書かれており、もしかするとこれはノンジャンルで反応に困る映画なのかもしれない。

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人間の体内に潜む水中での行動様式