内木美樹さんと尊君(写真/内木さん提供)
内木美樹さんと尊君(写真/内木さん提供)

 知的障害児をテレビCMや広告のモデルとして起用してもらおうという事業を立ち上げた女性がいる。女性自身も障害児の母親だが、「知的障害者にもっと親近感を抱いてほしい」という当事者側の一方通行のお願いではなく、障害当事者と家族もイチ消費者としてその企業の売上げに貢献できるのではないかという、双方のメリットを前提にした事業だ。だが、直面したのは「障害者を利用している」とのクレームを恐れる企業側の「壁」だった。“門前払い”の状況の中で、なかなか伝えることがかなわない女性の思いとは――。

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 千葉県に住む内木美樹さん(39)。長男の尊(たける)君(8)には自閉症と重い知的障害がある。

 海外のホテルでの接客経験を生かし、飲食店向けに英会話レッスンをする会社「華ひらく」を運営している内木さん。知的障害児をもっと身近に感じてもらい暮らしやすい社会作りにつなげたいと、1年前にキッズモデルの知的障害児版ともいえる事業を同じ会社内で立ち上げた。

 だが……。

「知的障害児を利用して会社や商品の好感度を上げようとしていると、消費者からクレームが入るかもしれません。広告への起用は難しいです」

 事業内容を説明するために訪問したある大手企業で、担当者が切り出した言葉に内木さんの頭は真っ白になった。

「クレーム……?」

 前例のない事業だけに、そう簡単にうまくいくとは思っていなかった。とはいえ「知的障害児を使ってもうけようとは何事か」という“炎上”を恐れる企業側の拒絶反応は、あまりに想定外だった。

多くの企業が炎上を怖がる

 内木さんが企業側にお願いしたいと考えているのは2点。起用してもらった子どもが知的障害児とわかるように何らかの記載をすること。健常者を含む複数の子供が登場する場合、知的障害児はみんなとポーズや表情を合わせることが難しいため、あえて統一しないで欲しいということ。障害児の自然な姿をとらえることで、「みんな違ってていいんだよ」というメッセージを込めるためだ。

 それ以外は、企業の自由な発想で演出してほしいというスタンスである。ところが、

「訪問した多くの企業様が、同じように炎上を怖がっていました。知的障害者を起用した前例がないことが、その不安に拍車をかけているように感じましたね」

 と内木さん。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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