キッズモデルたち(写真/内木さん提供)
キッズモデルたち(写真/内木さん提供)

 内木さん自身も英会話レッスンの事業で収入を得てきたが、同じ知的障害の子供を持つ親たちも安定した職に就いている人はたくさんいる。健常者の家族と同じく、子どもと一緒にあれをしたいこれをしたいと思っても、環境が整っていなかったり気を遣ってしまったりで、お金を使う機会がなかなか持てないのだという。

 例えば、スーパーに少し大きな子供でも乗れるカートが常備してあれば、ゆっくり買い物に出かけられる。海外では事例があるが、障害者を対象にした上映日を設けてくれる映画館や施設があれば、こぞって行くだろう。「障害者歓迎」と明記してある宿泊施設があれば、他の客に影響しない部屋をお願いしつつ、訪れる家族はたくさんいると内木さんは考える。

「『入れてもらう』のではありません。飲食をしたりグッズやお土産を買ったり、私たちもちゃんとお金を使って売り上げに貢献します。めったにない機会ですから、むしろその時にはお金を使っていろんなものを買ったり体験をしたいんですよ。わかりやすく言えば、お金を使う気が満々でちゃんと経済にも貢献したいと考えているのに、その環境がないんです」

 そう語る内木さんも、5年前に尊君の障害がわかったときは「目の前の道がなくなり荒野に立たされた気持ち」だったという。保育園でも、一人だけ違うことをしてしまう尊君。他の子供たちとの「差」を突きつけられるたびに、苦しくて泣いた。保育士さんに優しくされると、今度はうれしくて泣いた。感情が行ったり来たりの日々を経て、親子の幸せを感じている今がある。

実際に起用された広告(写真/内木さん提供)
実際に起用された広告(写真/内木さん提供)

前例のないチャレンジ

 登録しているキッズモデルは25人、起用実績はまだ6社。わが子の生き生きとしている姿や、ホームページにモデルとして掲載されることで、親たちも喜びや気づきを得る。

 前例のないチャレンジでもあり、今後、事業の狙いや意義に耳を傾けてくれる企業がどれほど現れるかは未知数だ。

 それでも、内木さんはこう話す。

「私たちも『してもらう』『与えられる』が当たり前と考えるのではなく、環境さえ整えば消費者として貢献できるし、そうしたいと考えている当事者がいるということをアピールしていく必要があると思っています」

 障害者や家族への配慮は必要だ。ただ、内木さんのように受ける一方を望まず、社会に生きる一員として「貢献」を意識している当事者家族がいることも、ひとつの事実である。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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