カブスの地元メディア『ダ・ウィンディ・シティー』も「期待していた動きがなかった」と、この結果に失望する。同メディアは今回のトレードで起こり得る様々な展開に期待するコラムを掲載した。中には、「鈴木誠也をトレードに出すべき」(7月22日掲載)と訴えるコラムもあった。

 鈴木は、今年3月にカブスと5年総額 8500万ドル(約113億円)の大型契約を結んだばかり。『NBCスポーツ』からも「今季なにもかもがうまくいっていない中で、カブスが唯一成し遂げた成功は、鈴木を獲得したことだ」(7月20日掲載)と言われるほど、地元で人気がある。『ダ・ウィンディ・シティー』は、なぜこのようなコラムを書いたのか。その内容は、読むと案外納得のいくものであった。

 同記事はまず、「カブスは最低なシーズンを過ごし、どういうわけか年々悪化している」とカブスの状況を憂いながら、「鈴木をトレードに出すことを検討すべき」と訴える。それもカブスの現状に理由があるようで、記事にはこう書かれている。

「カブスは鈴木と5年契約を結んだが、鈴木が最高の価値を持つ今トレードに出すことは賢明であるかもしれない。カブスは、鈴木を抱えている間に良い(強い)球団になるつもりがなく、鈴木もケガをしやすい兆候をすでにみせている。鈴木はトレードで多く(の選手)を獲得できるタイプのプレイヤーだ」

 鈴木は5月25日の試合中に左手薬指を痛め、6月を全休したが、7月は復帰後の21試合で、4本塁打を含む23安打9打点と波に乗った。しかし、カブスは前述の通り低迷中ということで、記事には「鈴木はカブスではポストシーズンに行くことが出来ない」と書かれ、「トレードで放出することが、鈴木とカブス双方にとって最善である」という持論が記述されていた。

 契約して間もなく、突拍子もない主張にも見えなくもないが、この記事に書かれていることは大谷の状況によく似ている。事実、今回のトレード期間中にあれだけ大谷の去就が騒がれていたのも、結局は所属するエンゼルスの弱さにある。

 今回、現地の野球ファンからは、「大谷を解放してあげて」と訴える声が多く出ていた。そして、鈴木が入団したカブスもエンゼルスと同じように低迷中だ。どちらもポストシーズンから遠く離れた場所におり、両球団とも今年のトレードは「失敗」している。鈴木のトレードは、結果として全く実現しなかったわけだが、全盛期を迎える選手を低迷する球団が抱え続けるのは大きな損失である、と『ダ・ウィンディ・シティー』は訴えたのだ。

 MLBのトレードは、莫大な利益を得る球団がいる一方で、最大のチャンスを逃す球団もいる。大谷と鈴木が所属するそれぞれ球団は敗者になった。トレード期間中の失敗は、将来の勝利も逃すことにも繋がる。今後ますます活躍が期待される大谷と鈴木。はたして、彼らがMLBで報われる日は来るのだろうか。(澤良憲/YOSHINORI SAWA)