人間にとっては、腹痛などを起こす厄介者だが、アニサキスからすると人間に食べられることが想定外だったようだ。

 それで“怒って”おなかの中で悪さをし、腹痛などの食中毒を起こすのだろうか?

「迷い込んだ先が人間の胃や腸。アニサキスは、そこで必死に生きようともがき、胃の粘膜に食らいついて、流されないように抵抗します。このとき、アニサキスに胃をかまれて痛くなるわけではありません。胃の粘膜には、皮膚のような痛みの神経はそれほどないので、内視鏡でポリープを取っても大丈夫なように、アニサキスにかまれた程度では痛みを感じないのです。むしろ胃や腸が異物を感知して、排出しようとする免疫反応や胃腸の局所的むくみや、ぜんどうによって腹痛が起きることがあります」

 つまり、アニサキスをのみこんでしまった人すべてが腹痛を起こすわけではないということだ。また、痛みの程度も人それぞれだという。

「おなかが少しキリキリする程度から、激痛で救急車を呼ぶほどまで様々ですが、アレルギーを持っている人が特に反応が起こりやすいというわけでもありません。アニサキスは寄生している魚が死んでいれば、徐々に弱っていきます。多くの場合は症状もなく、そのまま便と一緒に流れ出てしまいます」

 診断の難しいアニサキス症は、見過ごされて報告されていない例も多く存在すると考えられる。では、出来る限り安心して魚を食べるには、どうしたらよいのだろうか。

 城戸教授によると、70度以上の加熱や、マイナス20度以下で24時間以上冷凍するなどの処理をすることで、アニサキスによる食中毒を防ぐことができる。

 一方、魚を提供する店側は、どんな対処をしているのだろうか。

 東京都豊島区の商店街にある魚屋は、

「うちで扱う魚は養殖だから、絶対とまでは言わないけど、ほとんどアニサキスは見ないですね。天然には大体いるものですけど」

と話す。たしかに、クジラやイルカから始まるアニサキスの本来の循環だと、養殖の魚には入りづらい。

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