アニサキスの全体像(写真はいずれも城戸教授提供)
アニサキスの全体像(写真はいずれも城戸教授提供)

 本格的な夏となる8月は食品衛生月間。最近では、元AKB48の板野友美さんが、「妊娠より痛かったんだけど……出産よりか」と、自身の食中毒の体験を報告したアニサキスが話題となった。サバやイワシ、イカ、サンマなどに寄生し、それを食べた人が腹痛などを起こす。魚好きな人にとっては、気が気でない。予防や対処法などを専門家に聞いた。

【動画】※閲覧注意!元気よく動くアニサキスがこちら

「ここ数年、アニサキスによる食中毒の報告が増えています」

 こう話すのは、大阪公立大学大学院医学研究科の城戸康年教授(感染症学・寄生虫学)。

 厚生労働省が発表した「令和3年食中毒発生状況」によると、アニサキスによる食中毒は、2015年に127件、16年に124件と横ばいだったのが、17年には230件に増え、18年は468件に倍増。19年以降も300~400件弱で推移している。

 増えている要因について城戸教授は、

「はっきりしたことはわかっていません。アニサキスは、クジラやイルカの中で卵を産み、その卵や幼虫が海中に放たれます。そのため、捕鯨の減少が要因という説や地球温暖化による生態系の変化という説もありますが、原因は不明です」

 と話す。

 2~3センチほどの白い糸くずのように見える線虫の一種のアニサキスは、伸びていたり、とぐろを巻いたりして、元気だとよく動いている。そもそも、海中に放たれたアニサキスが、どうやって人間の体内に行き着くのだろうか。

「クジラの胃の中にいたアニサキスの卵が海に出たあと、それをオキアミなどの小さい生物が食べます。今度はサバがオキアミを食べ、それをクジラが食べて、アニサキスはまたクジラの胃の中に戻って成虫になり、卵を産みます。これがアニサキスの一生です。しかし、そこに人間が入って、サバを取って食べるため、人間の体内に入るわけです。アニサキスからしたら、本来行きつく場所とは別の所へ迷い込んでしまったような悲劇なのです」(城戸教授、以下同)

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免疫反応や胃腸のぜんどうによる痛み