写真はイメージです(Getty Images)
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、AV対策法案について。

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「高いものは怖い」

 AVに出演したことのある女性で、そう語る人は少なくない。出演料が高い「作品」にはリスクがある、という意味だ。エアガンで撃たれたり、全身を針で刺されたり、体に釘を打ち込まれたり、乳首をペンチで潰されたり、首を縄で絞められたり、おなかを蹴られたりという暴行を「売り」にする作品もある。「20万円もらった日、死ぬかと思った」と、生活困難で支援された女性の話を聞いたことがあるが、高いお金をもらったんだから仕方ない、自分も悪かった……と、女性たちは自分を責め続ける。長いPTSDに苦しみ続ける人もいる。

 与野党議員等らによりAVに関する法案の素案がまとめられ、今国会中に成立する勢いだ。素案では、AVは「性行為映像制作物」とされ、「性行為に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され」と定義された。それまでの内容と一番大きく変わったのは、「性行為を行う人」を「性行為に係る人」と表現をぼかしたこと。「性行為」を業務として国が認めるのか!? という批判に応えての変更だろう。

 とはいえ、これによってAVとは「演技」ではなく、「性行為に係る姿態を撮影した」ものと国が決めたことにもなる。素案には「生殖機能の保護」についても書かれているので、リアルな性交も黙認している法案だ。

 もちろん、この法案によって救われる被害者はいる。

 契約をかわした後、1カ月間は撮影が禁止されるので、1カ月以内に考えが変われば契約は解除できる。さらにAVが公表されてから1年間は無条件で契約を解除でき、作品の差し止めも要求できる。いったん結んだ契約を無条件に解約できるという救済策によって、救われる被害者がいることは確実だ。だからこそこの法案を通すベきだ、という声は痛いほどわかる。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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この法案では救われない被害者がいる